あの海のむこう

こぼれないこと

『キムチ』あるゆえの、アルバイト日記①

 

 

わたしがBASIさんを知ったのは、毎週火曜の深夜に放送されている「Creepy Nutsオールナイトニッポン0」のおかげだ。HIPHOPな2人がパーソナリティを務めていることだけあって、この番組ではそういう音楽がかかることが多く、そっから新しい曲に出会うこともしばしばだ。(最近では神門さんの『夫婦』がめちゃくちゃ知れてよかったソング。)OPトークの終わりに1曲、後半の「R-指定の日本語ラップ紹介」コーナー内でR‐指定の解説付きでもう1曲が流れる。

この前はOPで『ヤーマン』*1がかかって、リスナー全員の耳に残りしばらくそれで盛り上がってて楽しかった、ね。てんやーマン!ミクチャ―マン!とか言ってたな。

 

私は、3つのバイトを掛け持ちしていて、もちろんだけど、それぞれ異なるベクトルの楽しさが存在する。ザッツ・バイト充。唯一の飲食店アルバイトは韓国料理屋さんで、オーナーも優しくて賄いも絶品だった。面接時やアルバイト始めたてくらいは、韓国料理で何が好きなの?と尋ねられても、よく分からず「ヤンニョムチキンですかね」なんて答えていたけど(もちろんチキンも文句無く美味しい)今なら確実にこう答える。「キムチチゲ。」今だって食べたくなる味、そしてふと思い出しちゃう味。

 

アルバイトを始めて半月くらい経ったある日のこと。賄いの時間に「キムチチゲまだ食べたことないでしょ?食べてみる?」とオーナーから言われて、「じゃあお願いします」なんて軽く返事をした。運ばれてきたトレーの上には、ぐつぐつと音がする小さめの土鍋と白いごはん。ほのかにくすぐる匂いだけで、ななな‥美味しそう。

少し年季がはいった土鍋の蓋はまだぴりりと熱くて、添えてあった赤色のギンガムチェックの鍋つかみで、そうっと開けた。途端にふわあっとたちこめた香り。唐辛子とにんにくといろいろ合わさった辛い湯気。でもどこか優しい感じがする。丸い鍋枠の真ん中には緑のニラがささっとのっていて、角が少し崩れた四角い豆腐や豚肉のはしっこや、しめじの頭がのぞいている。赤いスープはまだまだ熱そうでスプーンですすると、辛みと酸味と旨味を続けて感じた。キムチチゲと空間が飽和しそうなくらい、

美味しい、、。

それから新メニューのおひろめ賄いのとき以外は、毎回キムチチゲをいただくようになった。「またキムチチゲ食べるの!」なんてからかわられたときもあるけれど、何度食べても美味しいのだ。キムチチゲをスプーンでひとくちすくって、続けざまに白いごはんを口に入れる時間が幸せだった。冷たい韓国産の梨ジュース(梨の果実の粒々が入っていて甘くて美味しい)をセットにすると、もっとおいしい。早くバイトの日にならないかな、とバイト帰りに自転車をこぎながら恋しくなるくらいだった。

 

そんなキムチチゲに染められたわたしはBASIさんの歌のなかで、もれなく『キムチ』がいちばんすきになった。

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おそらく恋人であろう2人が、雨上がりに買いものをして手をつなぎながら部屋に帰って、それからいっしょに夜ごはんのキムチ鍋を料理するはなし。なんて素敵な日常の切り取り方!キムチチゲ好きからしたらなおさら、ぎゅんとなった。キムチ鍋がぐつぐつ出来上がっていく狭間で、BASIさんならではの優しい目線で日々の幸せや愛なんかが、その熱々の鍋の中に込められていく。ことばの粒がたちこめていく。

辛さも旨味もあったかさも愛も、しゅるしゅると渦を巻きながらつまったキムチ鍋!最高に幸せな食べもの。梨ジュースで乾杯。この歌のおかげでよりいっそうキムチチゲ好きに拍車がかかったのだった。以下、『キムチ』の素敵な歌詞たち。

 

雨が上がった午後に光が寄って来た歩道に

夕飯の食材を求めて右手には左手共に

野菜と肉18とキムチ鍋の素っつー感じ

 

台所でニラを切りましょう

シミだらけのエプロン身にまとう

オレは辛さの確認に夢中

湯気が立つ甘口の小宇宙

 

万が一片方が壊れてくすんでももう片方が色付ける

あたため合って高め合っては

また冷めたキムチ鍋に火をつけるよ

 

 

こっそり謝辞。

美味しい熱々のキムチチゲを「どうぞ〜」って何度も作ってくれて、キムチ鍋との日常を歌ってくれて、感謝。これからもいただきます。そして、聴きます。

ふたつがうまく合わさって、バイトソングのひとつとなりました。

ビバ甘口の小宇宙、キムチチゲ

 

 

*1:HIBIKILLA-ヤーマン